ジョーカー

 去年の秋に公開された「ジョーカー」をキネカ大森まで観に行ってきた。大田区の大森駅は地方出身者を懐かしい気分にさせるような駅だと思う。都心までそう遠くないにも関わらず、洗練とは程遠い地域だ。どこかで観た風景だとしばらく考えていると、私の出身地、九州の地方都市にある駅周辺の感じと似ていると気が付いた。大森駅はもしかしたらこれから栄えていく地域かもしれないが、地方都市が今後繁栄することはおそらく無いだろう。思わず故郷と重ねてしまう街、それが大森だ。そんな街に、キネカ大森という素晴らしい映画館がある。

 本作品はホアキン・フェニックス演ずるアメリカンコミックの悪役キャラクター「ジョーカー」の誕生を描いた作品となっている。ジョーカーは元々、アーサー・フレックという精神疾患を抱えた冴えない道化師で、ケン・ローチ監督作品の主人公並みに踏んだり蹴ったりの報われない人生を送っていた。更に自分の精神疾患の原因に母親が大きく関わっていたことがわかり、現在も不幸なら過去も不幸やんけ!な人生が露見。しかし、そこはアメコミの悪役キャラクターなので、アメリカ人なら誰でも持っているお役立ちアイテム・拳銃で人を殺めたのをきっかけに、アーサーの奇行が暴走していくという話だった。既にケン・ローチ作品で不幸な主人公慣れをしてた身としては、ジョーカーとなるアーサーの不幸っぷりに同情はするものの、人を殺める程では無いな…と思うが、そこは精神疾患、という設定もあるので、「お、おう」という感想しかない。ただ、主人公が最後に登場したのは精神病院でのカウンセリングだったので、人を殺めたりしたのも全て彼の妄想であった、という可能性も大いにある。落語の演目にある「天狗裁き」の夢落ちも見事であるが、本作品も2時間にわたる壮大な妄想落ちであれば、突然のアーサーの残虐性にも納得できる。

 本作品で主人公を演じたホアキン・フェニックスであるが、昨年はガス・ヴァン・サント監督作品「ドント・ウォーリー」にて実在する漫画家の伝記映画で、事故により身体障害者となった主人公を演じ、作品も、ホアキン・フェニックスも大変素晴らしいものであった。ホアキン・フェニックスはコンスタントに映画に主演しており、「ドント・ウォーリー」の前は2014年「インヒアレント・ヴァイス」、2013年「Her」、2012年「マスター」を観たが、本当によい作品にばかり出ている。1995年に「誘う女」で主人公の嫌な女、ニコール・キッドマンに弄ばれるナイーブな青年を演じてからもう25年も経つのかと思うと感慨深いものがある。

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