東京の地下鉄は電車内の扉の上に液晶画面を埋め込んでおり、そこには広告動画が澱みなく動いている。
最近、ノートパソコン富士通のコマーシャル動画で既視感のある男性がいたので注意深く見ると、今年の夏に観たインディペンデント系の映画作品の主人公を演じた松浦祐也という俳優であった。「岬の兄妹」という邦画作品で、イギリスの巨匠ケン・ローチ監督並の、労働者階級の人たちに焦点をあてた作品だった。
足に障害を持つ兄と、自閉症の妹が、生活の為に兄が妹の売春斡旋をするという何とも救えないストーリーだった。が、よい映画にとってストーリーなど割とどうでもよいものだと私は常々思っている。作品全体に漂う陰影の中にもコメディのエッセンスが混じっており、何と言うか、陰鬱なシチュエーションであっても不快にはならず、笑えるシーンがいくつもあった。
興味深かったのは売春を始める前の食うや食わずの極貧の生活から、売春が軌道にのって増えた収入により、兄妹二人の顔に余裕が表情が生まれたことだ。
ケン・ローチの作品にも言えることだが、実は裏テーマがあると感じており、裏テーマというのは情報弱者だとこうなってしまうよ、という戒めではないか思う。私だって何かの拍子に仕事を失い収入を失うということがあるかもしれない。そうなれば私は迷わず行政機関に助けを求め、生活保護を受けるだろう。しかし、この兄妹はそのような事をしないのだ。
明日は我が身、と思いつつ、よい作品を劇場で観て大満足の1作であった。