私は分不相応な時計を2つ持っている。ひとつはカルティエのパンテールで、もうひとつはエルメスのHウォッチだ。
私は常々、自分の住む家の家賃よりも高い値段のバッグや服を持つなんて馬鹿げていると考えている。時計にしても、むやみに高級な時計をするのは品が無いと思っている。かくして品の無い私は高級時計を持っている。
いずれも二十代の頃に手に入れたものなので、かれこれ20年以上も所有していることになる。カルティエは10年程前に時間の進み具合が遅くなってしまい、当時住んでいた街のデパート内にあった時計修理のコーナーに持って行ったが、そこではカルティエのオーバーホールは受け付けておらず、カルティエに送って修理を行うとのことで、ものすごく時間が掛かるのと、料金がどのくらいかかるのかも不明であった。貧乏性の私は、エルメスの時計が動いていたので、それ以来、カルティエの時計は放置していた。
しかし、この度、エルメスの時計の時が進む速度が遅くなってしまった。嫌な予感がし、まずはミスターミニットに持って行った。そこではエルメスなどの高級時計は店頭では電池交換をしてくれず、工場で電池を替えるだけで10日もかかると言われてしまった。また、購入以来、オーバーホールをしていないことを伝えると、オーバーホールの重要性を教えてくれたものの、ミスターミニットでは料金が不明で、オーバーホール完了後に代金を請求で、かつ金額はおそらく3万円は超えるだろうとのことだった。
そこでネットで調べるとどうやら中央区内に高級時計の電池交換とオーバーホールを行う「ウォッチ・ホスピタル」という店があることがわかり、先週、電池の交換に行った。電池の交換程度なら、その店は店頭で行ってくれるのだが、私の時計は自分の皮脂のせいで、文字盤の裏にある蓋のネジを外してもピッタリとくっついて、蓋はビクともせず、1週間預けることにした。1週間後、取りに行き、ついでに10年程使ってなかったカルティエの時計もオーバーホールしてもらうべく、持参した。
久々にカルティエのパンテールを手に取り、時を刻まない時計を眺めたが、やはり美しい時計だなと思った。ステンレス製で小振りのスクエアの文字盤は私の小さな腕に馴染みがよいのだ。私はなんとなく角ばったの文字盤に惹かれる傾向があるようで、パンテールもHウォッチもスクエアの文字盤だ。せめて現在所有している美しい時計に見合う人間になるべく、精進します。もうすぐ無職になるけど。