宮本から君へ

 東京という都市のよいところは、見逃していた映画作品を思いがけず映画館で観る事が出来るというところだと思う。明日、1月9日まで角川シネマ有楽町で公開中の「宮本から君へ」を観に行ってきた。有楽町界隈はよく行くが、ビックカメラの上に映画館があるとは今回まで知らなかった。

 本作でヒロインを演じる蒼井優を初めてスクリーンで観たのは2008年公開「100万円と苦虫女」だった。ちっとも笑わないヒロインで、いつも困ったような、つまらなさそうな表情をしていた役であったのにも関わらず、とにかく可愛いかった。その後、彼女の活躍はなんとなく知っていたが、なんとなく映画作品を見逃してしまっていたので、11年ぶりに観た蒼井優が生々しい濡れ場OKの女優になるとは思ってなかった。アイドル女優で終わらずによかったと思う。主人公「宮本」を演じるのは池松壮亮で、2016年公開の「セトウツミ」では勉強のできるの高校生役に全く違和感が無かった。

 「100万円と苦虫女」も「セトウツミ」も割と低めのトーンで話が進む作品でコメディタッチの作品であったが、本作は性描写あり、暴力描写あり、主人公は血まみれになるわ、主人公の恋人はレイプされるわ、泣いたりわめいたりと主演の二人の怒りと悲しみのハードモードで起伏の激しい作品であった。そして、この作品の映像はちっとも美しくないのだ。怒りで歯を食いしばったり、鼻水を垂らしたり、精液が足を伝って滴ってきたりと、性と生が生々しく入り乱れる作品なのだ。観ているこちらも力が入ってしまい、映画を観終わった後はぐったりしてしまった。

 映画の示す時系列もまた独特であった。回想シーンでも無いのに、過去と現在が行きつ戻りつするのであるが、それが巧みなのだ。薬物スキャンダルで話題のピエール瀧も主人公の強面の取引先、という役どころで出ていた。本職が役者で無いにも関わらず、怖い顔をした体育会系のスーツのおじさん役がピッタリだった。薬物が抜けたら是非、復帰して欲しいと思う。

 こういう骨のある作品を映画館の大きなスクリーンで観ることが出来て幸せであった。