悲しきエレベーター

 多くの人がそうであるように、私は極端に裕福でもなく、極端に貧困でもない家庭で育った。いや、貧しい家庭だったのかもしれないが、私の育った地域では皆、どこかに貧しさがあったように思う。軒先では発泡スチロールの中に花が植えられていたりだとか、そんな具合だった。しかし、それが当たり前だったので、貧しいだとか、裕福だとか、そんなことにあまり気を配ったことが無かった。1970年代の地方にある田舎の小さな町はどこのそんな風だったのだろうか。誰の土地ともわからない、雑草だらけの空き地があちこちにあり、秋になるとセイタカアワダチソウの嫌な黄色で覆われた。

 私の住んでいた地域には高い建物がほとんど無く、5階建てくらいのマンションが唯一ある程度だった。小学生の頃、クラスメイトがそのマンションに住んでおり、彼女の家を訪ねた事があった。彼女の家は4階にあったか5階にあったか、記憶は定かでは無い。

 その日、彼女を訪ねようとマンションに行くと、エレベーターの扉が開いていた。私は何も考えず、エレベーターに乗り込むと扉の横に並んだ多くのボタンに面食らってしまった。数字の書かれたボタンが縦に並んでおり、その下には漢字で書かれたボタンがあった。私は、わからなかった。エレベーターに乗ると、上や下に行けるのは知っていた。しかし、どのボタンを押せばよいのか、私にはわからなかったのだ。壁に貼りついたボタンを私が押してよいものかどうかすらもわからなかった。恐ろしくなった私は急いでエレベータから飛び出し、階段を駆け上がった。

 その後、私はクラスメイトに会えたのかどうかは覚えていない。ただ、エレベーターの恐ろしさや丸いボタンの存在感だけを覚えている。

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